
ブラインドサッカーのチーム日本一を決める闘い「第22回 アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権」ファイナルラウンドが2025年月2月8日(土)、東京・町田市立総合体育館で開催されました。TEAM BEYONDの観戦会参加者70名が、決勝観戦のために町田に集まりました。
決勝戦に進出したのは、東京が拠点で大会2連覇を狙うfree bird mejirodaiと、宮城県・仙台市を拠点としこの大会初の決勝進出を決めたコルジャ仙台の2チーム。
当日は、観戦ナビゲーターとしてパラスポーツを長年取材しているスポーツライターの宮崎恵理(みやざき えり)さんに、ブラインドサッカーの見どころや注目選手など観戦ポイントを解説いただきました。さらに、今回はJリーグのFC町田ゼルビアでアンバサダーを務める元日本代表・太田 宏介(おおた こうすけ)さんを特別ゲストとしてお招きし、町田愛、サッカー愛あふれる解説を披露いただきました。
全国22チームの頂上決戦
第22回アクサブレイブカップは、全国22チームが参加し、11月の予選ラウンド、12月の準決勝ラウンドを経て、最終4チームがファイナルラウンドに残りました。この日、午前中には3位決定戦が行われ、品川CC パペルシアルとbuen cambio yokohamaが対戦し、1-0で品川CC パペルシアルが3位を決めました。
FC町田ゼルビア・太田宏介アンバサダーがゲストに
観戦会では、地元・町田市出身で現在FC町田ゼルビアのアンバサダーを務める太田宏介さんに、ゲスト解説をしていただきました。
試合前のピッチを間近で見学 肌で感じる距離感
決勝が始まるまでの時間を利用して、参加者の皆さんは太田さんとともにピッチサイドを歩きながら、実際の選手目線でブラインドサッカー(通称ブラサカ)の見どころなどを体感していただきました。
「ピッチはフットサルと同じサイズと聞いていましたが、縦に長く感じますね。そしてゴールはフットサルよりも大きい。」
太田さんも、ピッチサイズから選手たちの運動量を推し量っています。
サイドフェンス沿いにピッチサイドを歩いた後は、ゴール裏に回り、選手たちに指示を出すガイドの目線で全体を見ていただきました。
太田さんは「選手たちはガイド、ベンチの監督、それにゴールキーパーの指示を声で聞き分けながら、自分がどの位置にいるのか、ゴールがどの角度にあるのかということを把握していくんですね」
と、改めて、ブラサカというスポーツの醍醐味を語ってくれました。
地元町田出身、太田さんの思い出
試合の観戦は2階のスタンド席から。座席に落ち着いてからは、町田市出身の太田さんの、思い出エピソードも。
「僕らは、子どもの頃、この体育館のことを“成瀬体育館”って、呼んでいたんですよ。毎週水曜日には小学生が50円くらいで遊べる開放デーがあって、バスケットボールとか卓球とか、いろいろなスポーツを楽しめる。毎週通っていました。中学、高校時代には、この体育館の地下にあるトレーニングルームを、やっぱり100円程度で使用できて、筋トレしていました」
この日、観戦会前には懐かしいエリアをしばし、お散歩されたのだとか。
「JR成瀬駅周辺には、美味しいラーメン屋さん、焼肉屋さんがあって、よく練習終わりに行ったなあ」
今回の会場である町田市立体育館と、地元の美味しいもので、太田さんのプロサッカー選手としての体の基礎が出来上がったようです。
連覇か初優勝か 決勝に進出した2チーム
決勝を戦うチームの一つ、東京のfree bird mejirodaiは、昨年度のチャンピオンで今大会2連覇を狙っています。このチームには、17歳の時に東京2020パラリンピック競技大会に初出場し、昨年のパリ2024パラリンピック競技大会にも出場した園部 優月(そのべ ゆずき)選手をはじめ、永盛 楓人(ながもり ふうと)選手、鳥居 健人(とりい けんと)選手などパリ日本代表選手のほか、男子日本代表強化指定B選手として躍進中の北郷 宗大(ほんごう そうだい)選手が集まる若手エリート集団です。
一方のコルジャ仙台は、2012年に設立された東北エリアきっての強豪チーム。第19回大会で3位となり、一気に注目を集めました。その後はファイナルラウンド進出がかないませんでしたが、今大会では、準決勝ラウンドで品川CC パペルシアルを下して初の決勝進出を決めています。現在18歳でナショナルユーストレセンのメンバーとしても活躍する斎藤 陽翔(さいとう はると)選手は、急成長中の注目選手です。長身でスピードのあるドリブルを得意とし、難しい体勢からでもシュートを狙っていきます。
ブラインドサッカーは、パラリンピックでは男子のみの競技ですが、日本選手権では健常者や女子選手がアイマスクを着用してフィールドプレーヤーとして出場することができます。free bird mejirodaiには、現在女子の日本代表選手として活躍する島谷 花菜(しまたに はな)選手が、コルジャ仙台には同じく女子日本代表の鈴木 里佳(すずき りか)選手が在籍。また、コルジャ仙台の健常者プレーヤーである佐藤 翔(さとう しょう)選手は、準決勝ラウンドで2得点を挙げ決勝進出を決めた立役者です。
コルジャ仙台が先制
free bird mejirodaiのキックオフで試合がスタートすると、開始わずか1分02秒でコルジャ仙台の佐藤選手のシュートで先制点。free bird mejirodaiが優勢な中、こぼれ球を佐藤選手がいち早くキャッチし、そこからダイナミックなドリブルで突破しました。コルジャ仙台はさらに2分04秒で、今度はコーナーキックから3枚の壁の脇をついて、石川 竜誠(いしかわ りゅうせい)選手が左足で2点目を追加。わずか2分間に、2得点を挙げました。
たまらずタイムアウトを取ったfree bird mejirodaiは、猛攻を仕掛けていきますが、前半は得点ならず。コルジャ仙台が2点リードのまま後半に突入。コーナーキックのチャンスを得たfree bird mejirodaiは、コーナーキックを担当した鳥居選手が、相手の守備を引きつけながら切り返してゴールを決めました。後半開始からこちらもわずか1分12秒。残り時間を考えれば、まだまだ予断を許さない展開で、観戦会参加者からも大きな歓声が沸き起こりました。
コルジャ仙台が初優勝
試合は、その後どちらも固い守備で得点を譲らず、最終的に2-1でコルジャ仙台が初優勝を遂げました。
free bird mejirodaiとコルジャ仙台は、この決勝戦が対戦3回目。
「ドリブルを読まれていて、すごく研究されているということを感じました」
と、コルジャ仙台の斎藤選手は語っています。
追加点を挙げて優勝に貢献した石川選手は、
「ゴールの時には無我夢中で打っていったんです」
と、喜びを表現していました。
一方、後半にfree bird mejirodaiのゴールを決めた鳥居選手も、
「とにかく得点をしなくてはいけない場面で、普段からみっちり練習してきた型でいける、という判断だったので迷わず振り抜きました」
と、こちらも冷静な状況判断とプレーを実現した結果の得点でした。
太田さんが見た決勝戦
ゲスト解説の太田さんも、白熱した戦いについて
「すごい決勝戦になりました。勝ったコルジャ仙台が、最後の最後まで体を張り続けて序盤に挙げた2得点を守り抜きましたね。一方のfree bird mejirodaiは、園部選手を中心に猛攻を仕掛けていましたが、残念ながらスイッチが入るのが遅かったのかなという印象でした」
実際、free bird mejirodaiの選手たちは、口々に「いつも僕らはスロースターター」と語っています。その弱点を、コルジャ仙台が見事についた形となった勝利でした。
「コルジャ仙台の斎藤選手は、フィジカルを活かしたキープと攻撃力、とくに終盤では高い位置で相手にとって嫌なプレーを続けていましたよね。身体的なアドバンテージはかなり武器になる、と感じています。また、先制点を挙げた佐藤選手、最終ラインからカウンターで1人、2人、3人抜きでのゴール。彼はそれ以外の時にはしっかりディフェンスリーダーとして壁となって、相手チームに何もやらせていないという固い守備でした」(太田氏)
参加者からの質問
今回の観戦会では、参加者がご自身のスマートフォンで解説や実況を聞くことができる「チアホン」というシステムで観戦していただきました。車いす席はチームビヨンドの席から離れた場所にありましたが、チアホンを通じて他の参加者と一緒にお楽しみいただきました。
このチアホンには、チャット機能が搭載されており、試合中に参加者の方から積極的に質問が寄せられました。寄せられた質問には、太田さんにもご回答いただきました。
例えば、「目の見えるゴールキーパーが、それほど大きくないゴールを守っていますが、どうして止められないのでしょうか」という質問について太田さんは、
「コルジャ仙台の2得点で言えば、どちらも非常にシュートスピードが速い。シュートをうつ選手とキーパーの感覚にズレがあって、シュートが読みにくいんですね。速攻で来るかな、と思っていたのに、うまく浮き球を使ってシュートを打つとか、キーパーとしては反応しにくかったと思います」
その浮き球についても質問がありました。「浮き球は、選手にはわかるものなのですか」
ブラサカのボールは転がすと、シャカシャカと音がしますが、空中では音がしません。だから、相手チームを翻弄する強力な武器になる一方、浮き球を使って味方に正確にパスするためには、日頃相当の練習を積み、コミュニケーションと感覚を研ぎすまさなければ、成り立たないのです。
「ブラサカのボールって、普通のサッカーボールと違って、結構重いんです。だから、浮かすことも難しい。浮き球を味方にパスするとか、確実に受け止めるトラップ、ものすごく高いテクニックですよね」
と、太田さんは語っていました。
ブラインドサッカーとサッカーの共通点とは
太田さんご自身は、以前TEAM BEYONDのイベントでアイマスクを着用してPK戦に挑戦したことがあるそうですが、実際の試合をライブで観戦されたのは初めてのことでした。
「生だからこそ、感じられる音、迫力、臨場感。選手同士がフェンス際で繰り広げる攻防はものすごい迫力でした。一方で、そのフェンスを使って自分の位置を確認しながら、またボールの音を聞きながら、頭でイメージしてプレーしていく。非常に多くの要素が詰まった競技だということを、改めて感じました。試合中、鳥肌が立っていましたよ」
太田さんは、プロサッカー選手としての経験からブラインドサッカーというスポーツに対して、どのような共通点を感じたのでしょうか。
「基本的には一般のサッカーとブラサカは、ほとんど共通していると思います。ポジションごとの役割が明確で、チーム全員で守って、攻めていく。ゴールキーパーやガイドの人たちのコーチングでも、サッカーと共有できる部分があると感じました。ゴールキーパーは、目が見えている分、より簡潔でわかりやすい言葉を使って選手たちに指示を出しているのが、とても印象的でした」
今回の観戦会では太田さんの魅力もたっぷり参加者の方に伝わったようです。
「太田さんのすぐ近くでピッチサイドを歩いたり、観戦できて幸せでした」「太田さんの解説があったことで、よりブラサカを知ることができました」「アイスホッケーのような迫力もあって、選手がケガをするくらいの激しさ!」「初めての観戦でしたが、解説があったことで楽しく応援できました」などなど、多くの「楽しかった」の声が届いていました。
今回の観戦会を通じて、参加者の皆さんも、ゲストの太田さんもブラインドサッカーにさらに興味が沸いた、と感じていただけたことが印象的でした。
「観戦会を通じて、生で観る楽しみをぜひ、仲間や友人を巻き込んで、もっともっと、広がっていってほしい。ブラサカの観客席が満席になることを期待しています」(太田氏)