支援企業・団体の声
東日本旅客鉄道株式会社
2025.2.26

グループ従業員約3300人が参加する社内ボッチャ大会を開催、鉄道会社がパラスポーツを通じて目指す社会とは

読者の皆さんは「ボッチャ」という競技をご存じでしょうか。

ヨーロッパで生まれたボッチャは、重度脳性麻痺者、もしくは同程度の四肢重度機能障がい者のために考案されました。ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに、赤・青のボールをそれぞれ6球ずつ投げたり、転がしたりして、ジャックボールにいかに近づけるかを競うスポーツです。1988年のソウル大会からパラリンピックの正式種目にもなっています。

このボッチャの普及やサポートに全社を挙げて取り組むのが、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)です。日本ボッチャ協会のゴールドパートナーであるだけでなく、社内にはボッチャ経験もある社員も含めて数千人ものボッチャプレイヤーがいます。

なぜJR東日本および同グループ各社は、ボッチャにここまで力を注いでいるのでしょうか。

日頃から多様性を考える

「どなたでも安心して鉄道をご利用いただける環境を作るべきだというのが当社の企業理念の大前提となっています。お客さまには老若男女もいらっしゃいますし、様々なハンディキャップのある方もいらっしゃいます。企業の姿勢としては、そうした多様性を受け止めて、あらゆる人たちに安心感を持ってもらえることが不可欠です」

こう話すのは、JR東日本 グループ経営戦略本部 経営企画部門 ESG・政策調査ユニット 整備新幹線・幹線鉄道戦略ユニットでユニットリーダーを務める横尾武士(よこお たけし)さん。社会インフラとしての鉄道は、障がいの有無などに関係なくさまざまな人が利用するものであり、そこには「多様性」という考え方が当然なくてはなりません。

現に、同社のビジョンでも「『ヒト(すべての人)』を起点に『安全』『生活』『社員・家族の幸福』にフォーカスし、都市と地方、そして世界を舞台に、“信頼”と“豊かさ”という価値を想像していきます」といった文言が掲げられています。

この企業理念の浸透の表れとして、一つ例を挙げるならば、JR東日本グループの従業員約3万人が「サービス介助士」の資格を取得していることでしょう。資格認定する日本ケアフィット共育機構の説明によると、多様な人が暮らす社会で、年齢や障がいの有無に関わらずに誰もが社会参加できるように必要なことを、その場にあったやり方でできる人材になるための資格だといいます。
※ 参考:https://www.carefit.org/carefit/system/

そのほかにも、全社規模、あるいは部署単位で、ダイバーシティ&インクルージョンに関わる研修などが実施されており、一人一人が多様性について考える機会が少なくありません。

ボッチャを選んだわけ

そうした状況の下、JR東日本グループがパラスポーツに関わるのは必然だったといいます。

「パラススポーツを会社として支援し、社員にも知ってもらう、あるいはプレーをしてもらう。それによって共生社会とは何か、多様性を理解するとはどういうことかについて、社内に浸透させるための一つのツールだと認識しています。世の中を変えるには何よりもまず私たち社員が変わらないといけません。それによって提供するサービスも変わっていきますから。そこが原点だと考えています」

JR東日本グループがパラスポーツにコミットメントする大きなきっかけになったのが、「東京2020オリンピック・パラリンピック」のオフィシャルパートナーに就任したことです。では、数ある競技の中でボッチャに目をつけたのはなぜでしょうか。

「いろいろなパラスポーツがありますけれども、ハンディキャップのある方とも一緒にプレーできる点において、ボッチャは特に多様性を許容したスポーツだと感じています。加えて、わざわざ体育館へ行かなくても、床にマジックテープで線を引き、ボールがあれば実施できる手軽さ、とっつきやすさもありますね。ボッチャというスポーツが持っているそうした魅力が、私たちの考え方にマッチしたということが要素として大きいです」

火ノ玉JAPANのメダリストからも感謝の声

では、具体的にどんなことに取り組んでいるのでしょうか。一つは日本代表チームの支援です。

「ボッチャがもっと世の中に浸透するための後押しとして、2020年から日本ボッチャ協会のゴールドパートナーになっています。スポンサードの中では『火ノ玉JAPAN』と呼ばれる日本代表チームのサポートも行っています。例えば、当社は福島県白河市にJR東日本総合研修センターがありまして、そこを代表合宿などで使用いただいています。元々その研修センターには障がい者対応の宿泊施設もありますので、それをご活用いただいています」

先のパリパラリンピックでは、女子個人(BC1)の遠藤裕美(えんどう ひろみ)選手が銅メダルを、混合団体でも銅メダルを獲得。凱旋帰国したメンバーは、メダルを持ってJR東日本本社にも立ち寄ってくれました。

JR東日本総合研修センターにて合宿中のボッチャ日本代表の遠藤裕美選手

「成果報告のためにご来社されました。その折には本社ビルの下のフロアにボッチャができるフィールドを急遽設けまして、火ノ玉JAPANの皆さんと役員チームが対戦したり、社員と交流する機会がありました。そこでは『研修センターを使わせてもらったおかげでメダルを取ることができました』といった声を頂戴しました。そういう話を聞いて多くの社員が心強く思い、社会貢献の意義を理解できました」

メダルを首からかけさせてもらった社員の方もいて、非常に盛り上がりを見せたとのこと。「世界的レベルのプレーヤーとの交流を通じ、心が動かされました。当社にとっても良い機会でした」と横尾さんは振り返ります。

グループボッチャ大会には3000人以上が参加

もう一つ、JR東日本グループの取組で特筆すべきは、冒頭に述べたように、従業員にボッチャをプレーする人たちが多数いることです。

実は年に一度、「JR東日本グループボッチャ大会」が開かれています。これは、グループ全社を対象に各エリアで予選会が行われて、そこで勝ち上がってきたチームが頂点を決めるというもの。2024年11月に東京体育館で開かれた大会では、902チーム、約3300人が参加。これは大会がスタートした2019年と比べて3倍程度に増えています。

JR東日本グループボッチャ大会には、グループ全社を対象に、約3300人が参加

さらに参加者も、グループ会社の一般社員からJR東日本本体の経営陣まで。中には障がいのある従業員もいるため、まさに多様性を体感できる大会になっています。もちろん、それはプレイヤーだけではありません。

「運営スタッフの中にもハンディキャップのある社員がいます。そういった社員とのコミュニケーションを通じて学ぶことも多いです」と横尾さんは力を込めます。

そのほかにも、職場単位でボッチャをプレーすることが日常的にあるようです。その意義について横尾さんは次のように語ります。

「いくつかの職場では、単なるレクリエーションとしてのボッチャ大会にとどまらず、そこに障がいのある方を講演者としてお招きして、鉄道を利用する際に考えること、思うことなどをフィードバックいただく機会となっています。スポーツを楽しみつつ共生社会を理解するという、イベントに相乗効果を持たせながら運営をしている職場が増えていますね」

それらを通じて社員の意識に変化が生まれ、本業においても今までとは違う接客応対ができるようになることを目指しています。社内のボッチャ大会ではあっても、優勝チームにはさらなる飛躍があると ESG・政策調査ユニット マネージャー糟谷周一(かすや しゅういち)さんはにこやかに話します。

「このボッチャ大会で優勝したチームは、ボッチャ協会のパートナー 企業が参加する『クリスマスカップ』への出場権を得られます。さらにそこで優勝すると協会主催の大きな大会に出られると聞いています」

このような機会を糸口にして活動を広げていきたいと糟谷さんは言います。とはいえ、ボッチャは現状、まだまだグループ内での活動にとどまっているため、今後はいろいろな方向から他企業を巻き込むなどして社外との連携を強化したいと考えているそうです。

「共生社会」という言葉をなくそう

なお、JR東日本グループはボッチャ以外にもパラスポーツとの関わりがあります。従業員の一人に、「世界ろう者柔道選手権大会」や「デフリンピック」に出場経験のある蒲生和麻(がもう かずま)さんがいます。

いわゆるアスリート採用ではなく、元々、障がい者雇用で入社したのですが、今や、ろう者柔道のパラアスリートになるまでに頭角を現しました。同社では今のところアスリート雇用制度は考えていないものの、企業としてできる範囲で選手としての彼のサポートに力を入れたいといいます。

このように、JR東日本グループは先進的な活動をしているように見えますが、「まだまだできていないことは多い」と横尾さんは謙遜します。常に頭の中にあるのは、あるパラアスリートが語っていた言葉です。

「その方は『共生社会という言葉がなくなればいい』とおっしゃいました。共生社会という表現自体、共生できていない状態にあるということの裏返しですから。共生社会という言葉を使わずに済むような世の中を実現していくために、私たちには何ができるだろうかと、これからも考えていく必要があると痛感しています」

横尾さんは続けます。

「ハード、ソフトの両面でJR東日本グループとしてやらなくてはいけないことがたくさんある一方で、社会の空気を変えていくためにパラスポーツの振興も必要です。まずは社員が変わるきっかけとしてボッチャがあります。次に、意識や行動が変わった社員がお客さまと触れ合うことで、今度はお客さまが変わっていく。ひいては社会が変わっていく。私たちJR東日本グループがそうしたことを求められているのであれば、ぜひお手伝いしたいですね」

各機関において、乗務員による車いすをご利用のお客さまの乗降をお手伝いする取組みが進められている。20230222_hc008.pdf (jreast.co.jp)

人々の生活に欠かせないインフラサービスを提供する鉄道会社として、これからも社会的な使命は果たしていく。パラスポーツの支援を通じて、同社のそんな強い決意を感じることができました。

東日本旅客鉄道株式会社
担当 グループ経営戦略本部 経営企画部門 ESG・政策調査ユニット 林・糟谷
住所 〒151-8578 東京都渋谷区代々木二丁目2番2号
電話番号 03-5334-1433
メール 01CB0D0@jreast.co.jp
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