支援企業・団体の声
大日本印刷株式会社
2025.2.26
誰でも気軽に体験、参加者11万人を超えたスマートフェンシングの魅力
近年、日本のオリンピック競技の中で大躍進を遂げている一つが「フェンシング」です。
2021年開催の「東京オリンピック」では、男子エペ団体が日本のフェンシング史上初の金メダルに輝きました。さらに2024年の「パリオリンピック」では、個人では男子エペの加納虹輝(かのう こうき)選手が金メダル、団体でも男子フルーレが金メダル、男子エペが銀メダル、女子フルーレおよび女子サーブルが銅メダルと、一大会で過去最高記録となる計5つのメダルを獲得しました。
それに続けと、パラフェンシングでも日本代表コーチに「ロンドンオリンピック」銀メダリストの三宅諒(みやけ りょう)さんが就任し、指導にあたっています。
このように活気付く日本のフェンシング界を下支えする企業があります。日本を代表する総合印刷カンパニー、大日本印刷株式会社(以下、DNP)です。実は、同社の一人の社員の奮闘から今につながるうねりは生まれました。
手弁当から始まったスマートフェンシング
その人物とは、DNP コンテンツ・XRコミュニケーション本部 コンテンツ事業開発ユニット アミューズメントビジネス推進部に所属する天利哲也(あまり てつや)さん。他の一般社員と同じく日々勤務する一方で、フェンシングの国際審判員という顔も持っています。
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「親の影響で小学生の時にフェンシングを始めました。選手としては大学卒業とともに引退しましたが、学生時代に国際審判員の資格を取ったので、今も海外の大会に訪れたりしています。東京オリンピックとパラリンピックの両大会でも審判を務めました」
DNPが企業としてフェンシングと関わるようになったのは、さかのぼること2016年。「東京2020オフィシャルパートナー」になったことを受けて、同社でも何か競技を盛り上げたいとの議論がありました。たまたまオリパラ関連の部署に天利さんが異動になったのがきっかけで、フェンシングへの注力が決まりました。
とはいえ、フェンシングはルールが難しく、認知度も低かったため、まずは実際に体験してもらう場が必要だと天利さんは考えました。そこで2017年10月、東京2020大会開催1000日前イベント「青山スポーツフェス2017」にて、フェンシングの体験会を実施したところ、大事(おおごと)になりました。
「ご存じの通り、フェンシングは防具を着て、マスクを被り、金属の剣を使います。非常に危ないし、イベント運営も大変だと大批判を受けました。会社からはもう止めてくれと言われてしまい……」
例えば、危険性を緩和するためにプラスティックの剣を使うこともあるようなのですが、それでも防具は必須ですし、判定が難しいという問題もありました。
「剣で突いても(電気審判器がないため)どちらが得点したのかわからないのですよ。審判が目視で確認するしかない。子どもたちが対戦すると判定に全然納得してくれないし、止めろと言うまでずっと突き合っていて危ない」
そこで天利さんが考案したのが、安心・安全を担保し、かつ電気審判器も活用できる「スマートフェンシング」でした。スマートフェンシングとは、柔軟性のある剣と導電性のあるジャケットを使って、誰でも簡単かつ安全にフェンシング競技を疑似体験できるもの。驚いたのは、ホームセンターで材料を購入するなどして、天利さん一人で用具を作り上げたということです。
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この新たな用具にフェンシング関係者は飛びつきました。海外からの貸出要請もすぐにあったそうです。
「機械が判定するからプレイヤーも納得してくれますよね。電気判定する、しかもシンプルにできるものが世の中にはなかったので、フェンシング関係者にとっては非常に便利で、多くの人にこれはいいと言ってもらえました」
2018年に初披露すると、その後の半年間で約5000人が体験するほどの人気に。そうなると、DNPとしても事業として取り組むべきだとなり、2019年7月、正式にスマートフェンシングのサービスを開始しました。
「CSRとか、プロモーションとかではなくて、事業としてきちんと収益を上げられるかどうかが肝心でした。これまでの企業スポーツと言えば、スポンサーとしてお金を出したり、アスリートを雇用したりすることがメインでした。そうではなくて、ビジネスとして取り組むことが大切で、それが結果的にフェンシングの普及啓蒙になるし、社会貢献にもつながると思っています」
もう一つ大切なのは事業の持続可能性です。仮に天利さんが担当を外れてもスマートフェンシングというコンテンツさえ残れば、活動は半永続的に続いていきます。
体験会の参加者は11万人を超えた
事業化したことで開発体制も強化され、DNPの保有する技術やノウハウが用具に織り込まれるようになりました。
「例えば、眼鏡の折れないフレーム素材など、普通なら手に入らない特殊な材質のものでも製造部門の人が見つけてきてくれます。また、商品・サービスに対する品質保証は厳しく、いまだに体験会で怪我人は出ていません。これらは当社の強みが発揮されていると思います」
リリースから5年以上が経ちますが、スマートフェンシングは常にバージョンアップを繰り返しているそうです。
2024年4月には「スマートフェンシング協会」を立ち上げて、一層の普及活動に力を注いでいます。現在までに体験会の参加者はのべ11万2000人を超え、最近は小中学校を中心に訪問機会が増えています。さらに体験会の評判は海を越えて広がり、海外からの引き合いも多いとのことです。
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「去年、イタリアミラノで開催したフェンシング世界選手権の前に、現地の学校に訪問して体験教室を実施したと伺っています。皆さんにとても楽しんでいただけたそうで、今後も積極的に展開いただけるとフェンシング競技の普及・発展に繋がっていくと思います」と日本フェンシング協会の中田玲子(なかた れいこ)さん。スマートフェンシング体験会は、なんとフェンシング強豪国のイギリス、フランスからもオファーがあったそうです。
「フランスで驚いたのは、フェンシングの長い歴史があっても、需要や課題が日本と全く同じだったということです。競技人口は増やしたいが、やらせたくても安全面など問題が多くて進められていない。その点、スマートフェンシングは誰でもが参加できるグローバルスポーツですし、安全、簡単、楽しい、やっている人も見ている人もわかりやすいというのが始めるきっかけにつながっているのだと思います」と天利さんは強調します。
メダリストの協力も
スマートフェンシング協会のメンバーには、東京オリンピックで金メダルを獲得した宇山賢(うやま さとる)さんも理事として名を連ねています。今では体験会に引く手あまたの宇山さん、活動に参加する意義をこう語ります。
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「東京オリンピック後、トークショーのようなイベントに出演したこともあるのですが、話すだけだとフェンシングの魅力は伝わりません。それと、オリンピックのメダルだけが目立ってしまって、『別にフェンシングでも何の競技でもいいのでは?』と疑問に思う時期もありました。でも、ある時に日本フェンシング協会の学校訪問事業で初めてスマートフェンシングを使ってデモンストレーションをしたら、子どもたちが喜んでくれました。やはり体験が重要だと実感しました。今では多くの人たちに東京オリンピックのレガシーを継承したり、感謝を伝えたりするための手段になっています。すごくありがたいですね」
安心・安全が担保されているため、子どもだけではなく、様々な障がいのある人や高齢者などでも気軽に体験できるアダプテッドスポーツとしての可能性も秘めているのがスマートフェンシングの利点と言えるでしょう。また、パラリンピックにおいては車いすフェンシングが競技種目ではありますが、普通のいすに座って対戦する「シッティングフェンシング」も徐々に広まりつつあります。この特徴は、誰もが平等に参加できることです。
このシッティングフェンシングを力強く推進している一人が、パラフェンシング日本代表の三宅コーチです。まだまだパラフェンシングは競技人口が少なく、それが大きな課題であるため、誰でも気軽に体験できるスマートフェンシングを体験してもらい、フェンシングの魅力を伝える活動はとても大切だといえるでしょう。
過去の反省も、今後はクリエイティブが必要に
DNPのパラスポーツに対する取組はフェンシングだけではありません。2017年12月には、パラスポーツを題材としたイラストやマンガ、アニメなどを展示する「PARA-GRAPHICS- -パラスポーツとアニメ・マンガ・写真の競演-」を開催しました。
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実は、このイベント担当も天利さんでした。例えば、法政大学のフェンシング選手と、パラフェンシング日本代表で東京地下鉄株式会社(東京メトロ)所属の安直樹(やす なおき)さんが車いすフェンシングで対戦し、その様子を学生たちがイラストに描くコンテストを実施。
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「パラフェンシングは練習相手が少ないので、安さんにとってはいい練習になるし、イラストレーターとしても迫力のあるシーンを間近で見ることができます」
そのほかにも、パラスポーツの競技器具などを展示したり、障がい者スポーツの普及啓発映像「Be The HERO」を上映したりしました。
イベント自体は盛況ではあったものの、継続できなかったことを天利さんは悔しがります。
「例えば、『パラアイスホッケーの用具ってこんなのを使うんだ!』などといった驚きがイベント参加者からありましたが、結局、見るだけで体験できなかったわけです。やはり実際に体験するとしないとでは大きく違います。普段パラスポーツに興味のない人たちが集まってくれたのはありがたかったですが、私たちとしてはそこから次につなげなくては意味がない」
特にフェンシングはルールが難しく、多くの人たちには馴染みもないため、いくらビジュアルで表現しようとしても限界があります。まずは競技を体験してもらうことが何よりも重要だと、天利さんは改めて痛感したと振り返ります。
とはいえ、“怪我の功名”で、こうした過去の反省があったからこそ、より多くの人が体験できる方法を考え、スマートフェンシングの開発に結び付いたのは、揺るぎのない事実でしょう。
逆に今ではフェンシングやパラフェンシングの認知をより広げていくために、クリエイティブな要素が不可欠だといいます。漫画やアニメが持つ力を活かし、世界に向けて発信していきたいと天利さんは意気込みます。DNPやスマートフェンシング協会の取組に今後も注目です。
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(左から)大日本印刷 天利哲也氏
株式会社Es.relier 宇山賢氏
公益社団法人日本フェンシング協会 中田玲子氏
スマートフェンシングに関する問い合わせ先
大日本印刷株式会社
担当 | 天利 |
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電話番号 | 080-1277-2377 |
Amari-T@mail.dnp.co.jp |