支援企業・団体の声
ピクシーダストテクノロジーズ株式会社
2025.1.16
テクノロジーの力でコミュニケーションのバリアを打ち壊す
2025年11月に東京都で開催される「東京2025デフリンピック」。デフリンピックとは、耳がきこえない、きこえにくいといった聴覚障がい者のオリンピックとして1924年にフランス・パリでスタートしました。
東京2025デフリンピックは100周年の記念大会に当たるとともに、日本で初めて開催されるデフリンピック競技大会となります。開幕に向けて気運を高めようと、目下さまざまな関連イベントが実施されています。どのようなものがあるのでしょうか。
例えば、2023年11月に東京・原宿で開かれた「みるカフェ」。これは、音声などの言語を文字に変えて“見える化”する技術を活用し、聞こえる、聞こえないに関係なく、誰もが快適にコミュニケーションできる環境づくり、そしてその体験を通して共生社会への理解を促すことを目的としたコンセプトカフェです。オープン初日から連日大盛況、12日間で4,000名超の来場者がありました。
このイベントでは、ある企業が出展した製品に注目が集まりました。ピクシーダストテクノロジーズの「VUEVO(ビューボ)」です。同社は筑波大学発のスタートアップで、落合陽一(おちあい よういち)氏らによって2017年に創業。「『社会的意義』や『意味』があるものを連続的に生み出す孵卵(ふらん)器となる」をミッションに掲げ、主にヘルスケア・ダイバーシティ、および業務環境・業務効率改善等のビジネス課題の解決を目指した製品・サービス作りに取り組んでいます。
VUEVOは、音声認識技術とAIを活用して、会話をリアルタイムに可視化するサービスです。主に、音声を360°集音し音声方向ごとに分離するワイヤレスマイクと、音声を文字変換しテキストでリアルタイムにPCやスマートフォンに表示するアプリケーションを組み合わせてサービスが構成されます。また、多言語翻訳にも対応していて、現在24カ国語に対応しています。
どのような経緯でこの製品は生まれ、そして世の中に広がっているのでしょうか。
波動制御技術で音声の方向までも把握
VUEVOのアイデアが出たのは2019年末にまでさかのぼります。きっかけは認知症を解決できないかという議論でした。View of Voice事業部長 兼 hackke事業部長の羽原恭寛(はばら やすひろ)さんが説明します。
「元々、認知症に焦点を当てた新規事業を検討していました。認知症の原因を紐解いていくと、原因不明という割合が最も多く、続いて難聴が挙げられていました。では、難聴者の課題をどうすれば解決できるか。プロジェクトはそこから始まりました」
具体的には同社の強みである波動制御の技術を活用して、聴覚を視覚に変換するわけですが、「声を波動として捉えて、その声がどこから聞こえてくるかを可視化することで、難聴者の課題解決につながるのではないかと考えたわけです」
使用するデバイスに関して、当初はスマートグラス(レンズがディスプレイになっているメガネ型のデバイスのこと)を想定し、開発を進めていました。しかしながら、スマートグラスの開発には時間がかかることと、ユーザーが手軽に使えるには世の中の色々な技術が整っていないという課題に直面します。
そこで、より早く課題を解決するために別の方法はないかと模索した結果、スマートフォンやタブレット、PCといった既存のデバイスを利用した形にしました。
とはいえ、商品化までほかにもさまざまなハードルを乗り越えていきました。例えば、リアルタイム性はどの程度必要か、音声がくる方向はどこまで細分化するかなど。その都度、メインターゲットとなる聴覚障がいの人たちへのヒアリングと、ユーザーテストを行ったと羽原さんは振り返ります。
「まず、声の方向を認識するために独自でマイクとアルゴリズムの開発に取り組みました。誰が何を話したかを表示するために必要だったからです。また、ユーザーの使い勝手の良いユーザーインターフェスをユーザーテストを行いながら作り上げました。スムーズなコミュニケーションのために声を文字表示するまでのリアルタイム性にはこだわりました。そのため、アプリケーションとサーバーの開発も全て自社で行いました。」
また、発話が得意ではないユーザーもいることを想定して、会話を文字入力できるチャット機能を加えましたが、相手が画面を見ていないと、そのチャットに気が付かないということがわかり、チャットを音声として読み上げるようにしたとのこと。そのほか、漢字が得意ではないユーザーのためにふりがなをつけたり、明度によって読みにくさがあるユーザーのために画面を暗いモードにしたり、課題が出てくる度に検討を続けました。聴覚障がいや難聴、視覚障がいといっても、ニーズはひとくくりにできないため、一つのケースをクリアしても次に別の課題が出てくる状況。従って、どのように線引きしながら開発するかは非常に苦心したといいます。
ユーザーは聴覚障がいのある人たちだけではない
こうして2023年3月に発売されたVUEVOは、実際にどのような人たちが利用しているのでしょうか。
基本的には企業や団体、自治体、大学などで導入されており、ユーザーは二つに大別されます。一つは聴覚障がいのある方がいる法人、もう一つは聴覚障がいには関係なく社内会議などで利用するケースです。
このようにユーザーに広がりが出たのは、発売後に追加されたさまざまな機能が一役買っています。その代表例がAI要約です。
「会話の内容について、もちろんログをきちんと取ることができますし、自動で要約されるようにもなっています。会議全体を見える化したい、議事録を残したいといった要望もあって機能を加えました。誰でも便利に使うことが可能です」
そのほかにも、製品のアップデートは随時行われています。そうした対応力も評価されていて、多くの企業等にVUEVOが導入されていると羽原さんは胸を張ります。
では、導入先からはどのようなフィードバックがあるのでしょうか。羽原さんが印象的だったのは、聴覚障がいのある社員が、社内の雑談に参加できるようになったという声です。
「オフィスで社員同士が雑談をする際に、聴覚障がいのある人たちにとっては、周りが何を話しているのかわかりにくいという課題が従来からありました。そうしたコミュニケーションの欠如が、聴覚障がいの方々の離職率を高めていた側面があると考えられています。でも、例えばVUEVOを机の上に置きっぱなしにして雑談すれば、聴覚障がいのある人でも参加しやすくなります」
コミュニケーションのバリアを取り払う
ピクシーダストテクノロジーズは、VUEVO以外にも、いくつかの製品・サービスを開発しています。
「SOUND HUG(サウンドハグ)」は、聴覚障がいのあるなしに関わらず一緒にコンサートを楽しめるデバイスです。球体のデバイスを抱えると、音楽がユーザーに振動で伝わるほか、音程に合わせて球体が発光する仕組みになっていて、視覚的にも音楽を感じることができます。
そのほかにも、ヒトやモノの位置を高精度で測位する「hackke(ハッケ)」、ガラス張りの会議室などで生じる反響音の問題を解決するべく音響メタマテリアル技術を応用した透明吸音パネル「iwasemi RC-α」などを提供します。
このように、同社は「HEALTHCARE & DIVERSITY」と「WORKSPACE」という二つのテーマで、今後もソリューションを展開していくといいます。
「社会課題解決という意味では、(企業などでの)例えば、人手不足の解消なども当てはまります。企業としての取組は多岐にわたると言えるでしょう」
言語の壁や文化の壁、情報の壁など、コミュニケーションを阻害するあらゆるバリアを取り去ってしまい、違いを超えた人の輪が自然と生まれる世界こそが、目指すべき理想の世界だと羽原さんは力説します。
デフリンピックでの課題と展望
そうした観点で、デフリンピックやパラスポーツイベントなどに積極的に関与したいという気持ちもあると羽原さん。ただし、そこにはまだ課題があるとのこと。
「デフリンピックでは現状、手話がメインのコミュニケーション手段になっていると聞きます。私たちのプロダクトは文字による表現はかなりできているものの、まだ手話には対応していません。そこが今後検討していきたい課題だと思っています」
最先端のテクノロジーによってダイバーシティ&インクルージョンを実現する。しかも地球規模でそれを推し進めるのは、ピクシーダストテクノロジーズのような会社なのだろうと、強く確信した取材でした。
(各製品のリンク先一覧)
VUEVO:
https://vuevo.net/
SOUND HUG:
https://pixiedusttech.com/product/soundhug/
hackke:
https://pixiedusttech.com/product/hackke/
iwasemi RC-α:
https://pixiedusttech.com/product/iwasemi/rc-a/
ピクシーダストテクノロジーズ株式会社
担当部署 | View of Voice事業部 |
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