アスリートと共に働き、日常的な交流をもつことが
深い理解と親近感につながり、応援にも自然と力が入る
障がい者の雇用・職場定着支援とスポーツ振興に力を入れる三井住友海上火災保険株式会社。2015年からはパラアスリートも採用。長年培ってきたノウハウをベースに、社員が自然とパラアスリートを応援したくなる、そして選手も安心して競技に打ち込める環境づくりを目指しています。
アスリートとしても、社会人としても
一流であってほしい
1989年に女子柔道部を、1991年に女子陸上競技部を創設。その後、トライアスロン部も創部し、数々の世界で活躍するアスリートを輩出している企業スポーツの名門、三井住友海上火災保険株式会社。スポーツ振興をスタートさせる2年前の1987年には障がい者職場定着推進チーム「チームWITH」を発足させ、以来、障がい者雇用促進のための受け入れ態勢づくり、職場定着のための職場環境づくりに力を入れてきました。その同社がパラスポーツ振興に乗り出すのはごく自然な流れだったと話すのは、同社人事部の杉山仁スポーツ振興チーム長です。
当社でもできることをと話し合う中で、パラアスリートを雇用してはどうかということになりました。そして2015年に選手を採用し、現在は計5名が在籍しています」(杉山チーム長)
「アスリートは引退後の人生の方が長い。それゆえ、一流のアスリートであると同時に一流の社会人でもあってほしい」との思いから、アスリートは全員、正社員として雇用し、各職場に配属。競技や選手ごとに活動状況が異なるため、就業時間や日数は柔軟に決めており、競技団体などから派遣依頼を受けての大会や合宿への参加は業務扱いとしています。と同時に、他の社員同様、しっかりと仕事も割り振られています。
例えば、米岡聡さんは、視覚障がいのあるパラアスリート。パラトライアスロンとブラインドマラソンの2種目で強化指定を受けているトップ選手のため、当然ながら、国内外での合宿や遠征に参加する機会も多く、続く時は月の大半は出社できない とのこと。それゆえ、仕事はチームで行うなど、会社側もしっかりとフォロー体制を築いています。不在期間中の仕事は、事前に割り振りを決めるなど、米岡選手がチームのメンバーと調整します。これは社会人として必要なスキルでもあるためです。
米岡選手の場合、実は競技もチーム戦です。
「マラソンもトライアスロンも個人競技のようですが、特に私のようなブラインドの選手には練習でもレースでもガイドが不可欠ですし、フィジカルトレーナーやコーチにもお世話になっています。レースはチームでの取組の成果を発揮する場なのです」(米岡選手)
ビジネスの場でも競技の場でもチームで戦うことの意義を実感している米岡選手は、その意義を講演やセミナーを通して伝えてもいます。
「米岡は、競技にも仕事にも一生懸命取り組む優秀な人材で、職場の仲間からも信頼が厚いです。正直、彼がいないと困ることもあるはずですが、不在時もスムーズに仕事が進められているのは、米岡がきちんと調整してくれるからでもあるんです」(杉山チーム長)
“日本一、世界一”の応援団がかけつけるのは、
同じ企業で働く仲間だから
同社には、アスリートを応援する文化がしっかりと根付いていて、同社所属のアスリートが出場する競技大会には、同社社員や代理店などで構成するスポーツ後援会「ガッテンダーズ」(会員数約6000人)の会員を中心に、多くの社員が応援に駆け付けます。
「私たちは日本一、世界一の応援団だと自負しています」
と、杉山チーム長も胸を張ります。“日本一、世界一”たるゆえんの一つは、人事部と広報部が一体となった応援体制にあります。例えばマラソンでは、あらかじめ選手に応援してほしいポイントはもちろん、応援の際の名前の呼び方まで確認。応援団を数チームに分け、選手が苦しくなる30キロ付近やゴールまであと一息の38キロ付近などに配置。おそろいの帽子やジャンパーなどを身につけたり、社名入りののぼりを立てたりして、大声援を送ります。また、ブラインドマラソンやパラトライアスロンの場合は、あらかじめガイドにも応援団が待機している地点を伝え、ガイドは応援団の姿が見えると「(コーポレートカラーの)“緑”がいるよ」と選手に伝えています。
「気配で応援団がいることに気づくこともあります。それほど、当社の応援団は存在感がすごい。もう、玄人ですよ(笑)。本当に応援がほしい場所にいてくれるので、そこで『米岡ーっ』と名前を呼ばれたりすると、そこで自分にムチを入れてもうひと踏ん張りできるんです。本当に心強いです」(米岡選手)
競技では負けることもあれば、ときには、出場すらかなわないこともあります。しかし、アスリートはどんなに悔しい思いをしてもまた立ち上がり、次のレースに向けて準備に入ります。「そんな姿を間近で見たら、応援せずにはいられませんし、それこそがアスリートを雇用する意義」と、杉山チーム長は強調します。
「ビジネスもある意味、戦いです。ビジネスでも競技でも戦う社員アスリートの姿を見て、明日から自分もがんばろうと思う社員が10人に一人でもいてくれたら、大成功ではないでしょうか」(杉山チーム長)
また、その結果に関わらず、大会後、選手は必ず応援団の元を訪れてあいさつし、一緒に写真撮影をしたりして交流を図ります。これも大切なポイントとのこと。
「社内の仲間のがんばりを目にするだけでも感じるものがあるのですが、さらに、試合後に選手と直接、言葉を交わすことで、ファンになるんです。子ども連れの場合、子どもが選手の姿を見て『僕も、私も明日からがんばる』なんて言ってくれたら、親としても嬉しいですよね」(杉山チーム長)
そうした体験をすることで、自然と「また応援に行きたい」と思う社員が増え、さらに、同僚や家族、友人に「行ってみるといいよ」と声をかけたり誘い合ったりするようになる。こうして応援の輪が徐々に広がっていくそうです。
パラスポーツ振興の肝は
地道にコツコツ
スポーツ応援の醍醐味を知っている同社応援団は、米岡選手の入社後初のパラトライアスロンの大会にも駆け付けました。
「朝の6時50分スタートだったのですが、約30人も応援に来てくださったんです。まだ私のこともパラトライアスロンのこともさほど知らないはずなのに、大変驚きました」(米岡選手)
とはいえ、パラスポーツは同社にとっては歴史が浅く新しい競技。そのため、杉山チーム長はもっと周知が必要と感じていると同時に、爆発的に応援者を増やす策はないと言い切ります。
「スポーツは盛り上がるときも、そうでないときもあります。また、そもそもそれなりの結果が出るまでには時間がかかるものです。だからこそ、イントラネットや社内報、社内衛星放送、スポーツ後援会「ガッテンダーズ」会員専用HPなどを通じて、コツコツと情報を流し続けるなど地道な取組を続けて、パラスポーツの応援も企業文化として根付かせていくことが大切だと考えています」(杉山チーム長)
また、これからパラスポーツに取り組みたいと考えている企業には、まず一緒に働いてみることで気づかされることが多い、と提案します。
「パラアスリートは障がいの種類も程度も、また競技レベルも一人ひとり異なり、当然、その悩みも必要な支援も違います。社員として身近に接することで、そうしたパラアスリートやパラスポーツへの理解が深まり、自然と応援する気持ちが生まれ、輪も広がっていくのではないでしょうか。大きなことをする必要はないと思います。私たちもパラスポーツ振興に関してはまだ道半ばなので、これからも、できることから取り組んでいきます」(杉山チーム長)
同社も一員であるMS&AD(MS&ADインシュアランス グループホールディングス)グループには、全体で20人以上のパラアスリートが在籍しています。グループとしてのシナジー効果を発揮すべく、各社の人事・広報部門が手を取り合っての取組もスタートさせたそうです。グループ各社が、心を込めてていねいに育ててきたパラアスリート支援の芽から大きな花を咲かせる、そんな日が来るかもしれません。
インタビューに御協力いただいた米岡聡選手御登壇の「BEYOND FES 日本橋」ステージの模様がこちらからご覧になれます。
2019年11月7日(木)「視覚障がい者ランナー×トライアスロン~日本トライアスロン界のレジェンドと迫る~」
Supported by 三井住友海上
三井住友海上火災保険株式会社
担当部署 | 人事部 |
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所属人数 | 4名 |
住所 | 東京都千代田区神田駿河台3-9 |
電話 | 03-3259-3111(代表) |
URL | http://www.ms-ins.com/ |