
11月7日(火)から11月13日(月)の期間中、渋谷キャストにて、障がいをもった方や難病患者、LGBT当事者などが出演した「ヒューマンライブラリー」が開催されました!
今回開催されたヒューマンライブラリーとは、話者を「本」に、参加する人を「読者」に見立て、対話することで互いを理解し合おうとする取組です。
主催は「超福祉展」と毎日新聞。超福祉展は2014年よりスタートした、型にはまらないデザインやテクノロジーを兼ね備えた福祉機器の展示や、ワークショップなどを行うイベントです。
そして毎日新聞は95年間もの間、国内唯一の点字新聞の発行を続けてきました。
初瀬勇輔さんという「本」と、参加者である「読者」の対話
今回のヒューマンライブラリーでは、100名近くの人が「本」役を務めました。LGBT当事者、筋ジストロフィー、潰瘍性大腸炎患者といった難病を患う方、車椅子ダンサーの方など、そのストーリーは様々です。
4日目の11月10日(金)には、「TEAM BEYOND」メンバーで、北京パラリンピックに出場した柔道家の初瀬勇輔さんも「本」役として登場しました。
初瀬さんが自身を「本」に見立ててつけたタイトルは「行動することで自分を変え世界を変える〜視覚障害が教えてくれたこと〜」。
初瀬さんは、中学の部活をきっかけに柔道に熱中。高校時代も、練習を続けてどんどんと実力をつけていきます。しかし、優勝を目標に挑んだ最後の県大会が、3位という結果で終わってしまいました。悔しさを抱えながらも柔道引退を決意し、大学受験に挑みます。
受験勉強を頑張っていたある日、右目が見えにくくなっていることに気づいたそう。
「病院へ行ったら緑内障と告げられました。突然のことに驚きはしましたが、遠近感がなくなっただけで日常生活にはあまり困らないこともあり、当時あまりショックはありませんでした。」
しかしその後大学に入学し、熱心に法律の勉強をしていた最中、今度は左目にも緑内障を発症してしまったのです。
「文字が読めないので携帯も使えない、本も読めない。人の顔もわからなくて、ショックで何もできなくなってしまいました。」
この時大きな支えとなったのはお母さまの存在。当たり前に持っていた“視力”を失ったことで、周囲と比べては愚痴や悩みをこぼしていた初瀬さんを、じっと隣で見守ってくれていました。
ご友人も毎日一緒に登下校をしたり、学校内でも行動を共にするなど、サポートをしてくれたのだとか。
「視覚障害になってよかったことがあるとしたら、それは母や友人の優しさに気づけた事です。それまでは気づけていなかったんですよね。」
その後の初瀬さんは、大学に通いながらもなかなか目標を見つけられず、自分には何ができるだろうと悩んでいました。そんなとき、「柔道をやってみたらいいんじゃない?」という知人のひと言をきっかけに、視覚障害者柔道の大会への出場を決意しました。
結果は初出場で見事優勝。その後も実力を発揮し日本代表になり、北京パラリンピックにも出場したのです。
就職活動、そして起業を経て、初瀬さんは現在も、柔道を続けながら会社の代表を務めています。
“組んで始める”だけで障がいを越えて戦える!視覚障害者柔道
後半、話題は視覚障害者柔道の話に移りました。視覚障害者柔道は、組んだ状態から試合を開始します。これにより片時も逃げられない技の掛け合いとなるため、試合終了直前に勝敗が逆転することもあるのだとか。
「組んで始めるという工夫をするだけで、健常者と障がい者でも対戦できるんです。他はルールも一緒。これは他のパラスポーツにはない魅力かもしれません。」
障がいの有無に関係なく同じルールで楽しめる柔道。他にもテクノロジーの技術と人間の力を融合した陸上競技など、パラスポーツには種目により様々な魅力があると初瀬さんは話します。
「初瀬さんの姿に励まされました」
「障がい者スポーツ、面白そうですね」
「ある日突然視覚を失うなんて、話を聞いて他人事じゃないと思いました」
初瀬さんという「本」を深く味わいつくした「読者」からはたくさんの感想も飛び出しました。
パラスポーツをきっかけにつながりのある社会へ
対話終了後、初瀬さんは改めて、パラスポーツを通して人々の交わりがある社会を実現したいという思いを語ってくれました。
「パラスポーツを見て“すごい!”と思うだけで、その選手が身近になりますよね。するとそれまで関わりがなかった障がいのある人のことを、少しでも知ることになる。スポーツには人と人とをつないでいく力があると思うんです。」
そして選手がパラスポーツを続けるためには、応援やサポートが必要だと強く感じているのだといいます。
「パラスポーツとか関係なく、人って誰かに支えられて初めて夢を持つことができると思うんですね。僕は選手として応援に支えられてきましたし、選手じゃないときは「TEAM BEYOND」メンバーとして他の選手を応援して支えたい。2020年もその先もずっとパラスポーツを盛り上げていきたいです。」
ご自身の人生での経験、そしてパラスポーツの魅力を存分に語ってくれた初瀬さん。選手として応援をしてもらうこともあれば、応援する側になることもある。パラスポーツを応援することは、こうした「人と人が支えあう社会」の実現につながるのかもしれません。
ぜひみなさんもパラスポーツ選手にエールを送ることで、その一歩を踏み出してみてください!